日本神話/(4)古事記:天地開闢④ 伊耶那岐命

愛がもたらした代償と闘った神

イザナキとイザナミは、天地開闢の最後に産まれた「神世七代(かみよななよ)」のうちの二人。

それ以前の神様は、男女の区別がない独神(ひとりがみ)であったが、イザナキは男神、イザナミは女神である。

イザナキの「キ」と、イザナミの「ミ」で「君(きみ)」となる。

「君」とは、男と女という意味がある。

またイザナは「誘う(いざなう)」の語源であり、誘い合う男と女を意味する言葉が生まれ、ここから「愛」が誕生した。

それまでの神は永遠であったが、この二人により「愛」が生まれ、その代償として「死」を受け入れたのである。

「愛」とは「死」をも超える存在なのである。

交配することで、より優秀な子孫を残し新陳代謝が活発に行われるようになった。

それはまるで、単細胞生物から多細胞生物に進化した過程と似ている。

その二人の物語が『古事記』で次のように描かれている。

イザナキは、国産み・神産みにおいて、イザナミとの間に日本国土を形作る多くの子を儲ける。

妻が火の神であるカグツチを産んだ際、それが原因で死に至り黄泉の国へ逝ってしまう。

イザナキは悲しみと怒りのあまりに、その子カグツチを殺してしまう。

それでも、妻が死んだことを受け入れられなかったイザナキは、黄泉の国まで迎えに行く決心をする。

妻がいる小屋まで辿り着くと、自分のもとへ戻ってくるよう声をかけた。

彼女は「こちらの食べ物を食べたからもう戻れない」と答えた。

しかし、どうしてもイザナキは諦められない。

それでもなんとか戻ってきてほしい。どうしても一緒に居たい。

すると彼女から「それではこちら側の神様に相談するからしばらく待っていてほしい。その間、決して中を覗かないと約束してほしい」と頼まれた。

言われた通りにしばらく待っていたイザナキは、一向に戻ってくる気配がないのが心配になり、心変わりしたのではないかと不安に襲われ、約束を破って中を覗いてしまった。

すると、そこには腐敗し、体中にウジが湧いている変わり果てた妻の姿があった。

その姿を見るなり、イザナキは慌てて逃げだしてしまう。

約束を破ったことに激怒した彼女は、悪魔を放ち、イザナキを追いかける。

一方のイザナキも、髪飾りから生まれた葡萄(ぶどう)、櫛(くし)から生まれた筍(たけのこ)、黄泉の境に生えていた桃の実を投げて抵抗し、難を逃れる。

最終的には、妻自ら追いかけてきたが、黄泉の国の出口を大岩で塞ぎ「お前とは離縁する」と言い放った。

この時のイザナキには、彼女の傷心の気持ちを察するほどの心の余裕はなかった。

それよりも、あんなに美しかった妻の変わり果てた姿と、鬼のような形相に怖気づき、愛も一瞬で覚めてしまったのである。

彼女はこうなることを予測して約束しておいたにも関わらず、その約束を破り、自分を正当化しようとするイザナキに激怒し、「お前の国の人間を1日1000人殺してやる」と叫んだ。

イザナキは「それならば、私は1日1500人産んでやる」と言い返した。

死ぬほど愛し合っていた二人の愛は、こうして呆気なく終焉を迎える。

「愛」を選び「死」を受け入れたにもかかわらず、もろくて儚い愛。

ボタンの掛け違いから始まり、縺れた糸はもう二度と、もとに戻ることはなかった。

愛は深ければ深いほど良いけれども、深いが故に疑り深くなり、つまらぬ問題を引き起こすものである。

 

これまでの学び

(0)古事記:はじめに

(1)古事記:天地開闢① 天地の始まりと神様の誕生

(2)古事記:天地開闢② 別天津神と神世七代

(3)古事記:天地開闢③ 伊耶那岐命と伊耶那美命の国生みと神生み

本日の課題

1:今回の学びで感じたことをシェアしてください。

2 件のコメント

  • kyorintomo@yahoo.co.jp より:

    もしイザナキが約束を守っていたら?と考えてみましたが、この時のイザナキは自分の感情を優先した行動をとってしまい、相手を思いやる知性が少なかったのかもしれませんね。以前の学びで自然界にある物は完全では無いとありました。それを完全に近づけるのが人の役割なのかも知れません。物でも心でもそれは一緒ですね。

  • 伊藤 より:

    ボタンの掛け違いから、元に戻らなくなった人との関係・・
    今まで当たり前のようにあった幸せや温かい人間関係が一瞬で崩れてしまう、そういう事もありますね。
    人間界で起きている全ての営みは、元々、神々の世界で起きた事が現象化しているのかもしれませんね。

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